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「ハイブリッドワーク」のもったいなさ

週数日程度のオフィスワークとリモートワークを組み合わせる「ハイブリッドワーク」は、一見すると柔軟かつ中立的な落とし所のようだが、ある側面から見ると未だほとんどのケースがまだまだ「オフィスワーク寄り」の働き方であるとも言える。

生産性ばかりでなくQOLなども含めた広い視野に立ち返り、リモートワークの活用によって得られるものの大きさを改めて見つめ直すと、経営者・従業員が共に幸せになれるような新たな選択肢も考えられるはずだ。

「リモート活用」の現状

コロナ禍によってホワイトカラー職全体としてオフィスワークからリモートワークへのシフトは一気に加速したが、感染拡大直後の緊急対応モードはすでに一巡し、落とし所は各社によって幅が現れてきた。

従業員へ再び週5日の出社を要請したGoldman Sachsのような例もあれば、同じ金融業界でもCitiなどはリモートワークをはじめとした働き方の柔軟性向上を積極的に進めている。

リモートワーク拡大によって企業にどのような影響が現れるのか、長期的なインパクトは未だ不明であり、普遍的なベストプラクティスは見つかっていないと言ってよい。しかし逆に言えば、少なくとも短期的にはリモートワークが企業業績に対して有意にマイナスのインパクトを与えるという証拠も見つかっていない状況だ(「もうちょっと色々弊害が出てくるかと思っていたら、思った以上にリモート中心の働き方で仕事が成立して驚いている」といった声も少なくない)。むしろ出社を要請する経営者の側に、その必要性の立証責任がある状態と捉えることもできる。

いずれにせよ、コロナ以前との比較で見れば明らかにリモートワークの比率は増え、特に週数日程度のオフィスワークと組み合わせた「ハイブリッドワーク」を採用する職場は相当な数に達している。

しかし、これが意外と曲者ではないかと思う。

なぜ東京に住んでいるのか

リアル空間で顔を突き合わせることによるコミュニュケーション上のプラス面というのは直感的には多くの人が実感している部分であり、その意味で週数日程度のオフィスワークを交えたハイブリッドは一見すると多くの企業・職場にとってバランスの良い選択肢である。

しかしそれは、あくまでほとんどの人が通勤圏内に住んでいたコロナ以前の世界を前提とした最適解だ。

リモートワークは本来、単に通勤時間の節約になる等の目先の生産性とは別次元の大きな可能性を秘めている。すなわち「大都市圏でのキャリアと、本当に住みたい場所での生活」の両立だ。これは少なくとも従業員側にとって、きわめて明快かつ巨大なメリットである。

そもそも現在なぜ多くの人が大都市圏内に住んでいるかといえば、一番の理由は仕事があるからだ。裏を返せば、「基本リモート」で仕事が成り立つのであれば、従業員が大都市圏内に住む必要はない。そうなるとオフィスワークは実質的に「出張」に近い位置付けであり、頻度もせいぜい月数回以下が妥当なラインではないだろうか。

もちろん、仕事がリモートであったとしても、大都市圏での生活そのものが好きだから大都市圏に住みたいという人は存在する。しかし自然豊かな環境を求める子育て世帯や、地方の実家に要介護の親を抱える人、単にもっと生活コストを抑えたい人など、「仕事さえ何とかなるなら本当は別の場所に住みたい」という人たちもまた確実に存在する。前者に比べ、後者のニーズが満たされる機会は限られているのが現状だ。

本当の「ハイブリッド」

ハイブリッドという言葉のイメージに何となく納得してしまいがちだが、現在多くの企業で採用されている「(週数回程度のオフィスワークを伴う)ハイブリッドワーク」を前述した観点からフラットに眺めれば、まだまだ従業員の居住地を実質的に通勤圏内に縛り付ける「オフィスワーク寄り」の働き方であるとも言える。

本質的な意味でハイブリッドを追求するならば、むしろ個々人の事情・ライフスタイルに応じ、フルオフィスからフルリモートまで各従業員が選べるようにすべきではないか。コロナ以前と以後の変化幅を考えれば、これはそれほど過激なゴールではない。

日本では、ヤフージャパンがこうした取り組みの急先鋒として存在感を発揮している。明確に「居住地不問」を打ち出して以降、同社への中途採用応募者数は1.6倍に急増したという。

目先のコスト効率などを考えれば必ずしも合理的とは言えない「本当のハイブリッド」は、中長期的に見れば優秀なタレントの獲得という形で十分なリターンをもたらすのである。

働き方のニューノーマルが形作られつつある今こそ、単なるコロナへの受動的な対応を超えて、そこから生まれた新たな機会を能動的に捉える戦略的なシフトを考えるべきだ。