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「事業戦略」の陰に隠れがちな「企業戦略」

「企業戦略」と「事業戦略」は、単に上位下位の関係にあるだけでなく、質的にもまったく異なる概念として峻別すべきである。

特に経営トップが関心を向けるべきは事業戦略よりもむしろ企業戦略であり、両者の意味合い・違いを正確に理解した上で、意識的に企業戦略へのフォーカスを保つことが重要だ。

事業戦略と企業戦略

事業戦略とは、ある事業が与えられた経営資源を用いていかに勝つかを追求するための戦略である。「フリーミアム戦略」や「ブルーオーシャン戦略」など、ビジネス書のタイトルになることが多いのはこちらの「戦略」だろう。

これらはいわばカードの切り方の話であり、手札となる経営資源は所与とした上で、それをいかにうまく活用するかが事業戦略における主要な問いとなる。

一方、各事業部門が手にする手札そのものの強化を目指すのが企業戦略である。これを更に分解すれば、大元となる経営資源の開発と、各部門への配分という2つの課題からなる。

経営資源の開発には、たとえば資金調達・人材育成・ITインフラ整備といった分かりやすいテーマはもちろん、企業理念やビジョンなどのコンセプトの設計も含まれる。これらのコンセプトは決してシャレや自己満足のための美辞麗句ではなく、「皆でこのコンセプトを共有しているから意思決定が効率化する・モチベーションの拠り所になる」など、きわめて具体的な機能を果たすべき経営資源だからだ。

そして、生み出された経営資源を各部門にどのように共有・配分するかも経営戦略上の重要な問いである。別記事で書いた通り、組織の力学は各部門に対する資源配分を無闇に均質化させようとする性質を持っている。したがって経営者は意識的に「不均等」な経営資源配分を行い、選択と集中を追求することが必要となる。

注目されやすい事業戦略

事業戦略は企業戦略と比べ、必要以上に注目されやすい傾向にある。

前述したフリーミアム戦略やブルーオーシャン戦略など、事業戦略として有名なものの多くは「弱者であっても強者に勝てる」という物語である。したがって多少なり話題性・驚きがあるし、誰にとっても「うちもこれをやれば勝てるんじゃないか」という希望を感じさせる。

しかし、弱者が奇手で強者に勝つというのはストーリーとしては面白くても、現実の戦いにおいては(戦争でもスポーツでも、そしてビジネスでも)あくまで例外的な事象でしかない。圧倒的多数は「強者が勝ち戦で順当に勝っている」だけのケースである。

「強者が勝ち、弱者が負ける」という現実は、当たり前すぎて面白みは全くない。しかし多くの場合において経営者が本当に目を向けるべきは、痛快な一発逆転の事業戦略論よりも、冷酷な現実と向き合うための企業戦略論なのだ。

企業戦略の担い手

「配られたカードで勝負するっきゃない」という名言は、配られるカードをコントロールしようがない場合だけに当てはまる。

平等な条件で戦うからこそ面白いトランプのゲームとは違い、企業間競争では戦う前からいくらでも「不平等」な状況を作り出すことができるし、作り出すべきである。「手札そのもの」を強化することの威力は、「手札の切り方」の工夫より遥かに大きくなりうるからだ。

しかし、否が応でも誰かしらは頭を捻ることになる事業戦略とは異なり、企業戦略に関しては放っておくと誰も真剣に考え抜いていないという状況がままある。だからこそ、少なくとも経営責任者は意識的に企業戦略に対するマインドシェアを高めるべきである。

「そうは言っても事業が好き、事業のことを考えていたい」という経営者も少なくなく、それはビジネスマンとしてごく健全な感覚ではあるのだが、もし本当にそちらに身を置き続けたいのであれば自身は「事業責任者」に留まり、自分とは別に「経営責任者」を確保した方がよい。

そして「経営責任者」という役割にコミットすると一度決めた人は、事業戦略には口出しをしたくなっても自制すべきである。経営責任者が事業戦略にマインドシェアを割いてしまえば企業戦略がお留守になるし、逆に企業戦略に頭を使いながら片手間で事業戦略について助言・指示を出してしまえばそれは害にしかならない。

このあたりの微妙な線引きの最適解は、会社の置かれたフェーズによっても異なる。だからこそ難しく面白い。