無理ゲーとしてのビジネスDD
M&AにおけるビジネスDDおよびバリュエーションとは、自社でも予測の難しい将来の戦略・業績について、あろうことか他社を対象にたかだか数週間で一応の答えを出そうという「無理ゲー」である。
以前書いた通り、このような難題こそイシュードリブンというアプローチの典型的な出番だ。
調査はしてみたけれど
一定以上の規模の事業のビジネスDDで起こりがちな問題として、数十・数百におよぶ検証ポイントにつき個別に調査を進めたものの、「結局この対象会社は『買い』なのかどうか」という根源的な問いに対する確信度合いは調査開始時点とさほど変わっていないことがある。
これはイシュードリブンが実践できていないときの典型的な現象であり、せっかくの努力が実を結ばない不幸なケースである。
投資仮説のコア
上記の根源的な問いに答えるためには、「結局これはどのような価値創造シナリオにベットする投資なのか」を明確に定義した上で、それが筋の良い賭けなのかどうかを分析する必要がある。
「何を買うのかを明確にすべし」とはよく言われるが、厳密には更にもう一歩の踏み込みが必要だ。本当に明確にすべきは「何を買い、どのように価値を創造するのか」という投資仮説である。
どんなに入り組んだ複合事業が買収ターゲットであっても、ごく単純明快にワンセンテンスで表現できる投資仮説のコアがあってしかるべきであり、逆にそれが思いつかない(色々な「それっぽい」言葉を散りばめたスローガンにしかならない)のであればそれはほぼ間違いなく筋の悪い投資だ。
これもあくまで個別の案件に応じて練り込まれるべきものだが、大掴みに分類するならば基本的には以下の5つ程度のどれかに概ね当てはまるはずである:
- キャズムさえ越えれば急成長しうる対象会社のシーズ(商品、技術、人材など)を育て、軌道に乗るまでキャッシュを保たせることができる(そんなシーズは誰にとっても魅力的な買収対象なので、裏を返すと「誰よりも上手く成長ポテンシャルを引き出せる」もしくは「誰よりも高くシーズの成長期待値を評価しカネを払える独自根拠を持っている」のでなければ買えるはずがない。買えてしまったらむしろ何かを見落としている危険信号である)
- 対象会社が持つシーズ(同上)を自社の顧客網に売ることで成長を加速できる
- 自社が持つシーズ(同上)を対象会社の顧客網に売ることで成長を加速できる
- 業界再編による過当競争の緩和・スケールメリットで利益率を改善できる
- (成長面は「市場なり」の伸びが最低限担保できる前提で)効率的な経営ノウハウ・ガバナンスの注入によってコスト削減余地を絞り出せる
最も怪しいのは、何やらセクシーな言葉が並ぶ具体性のない「シナジー」(大抵はトップラインが伸びることになっている)である。
一定以上に成熟した企業を買うのであれば、トップライン絡みで期待できるシナジーは基本的に「クロスセル」に尽きる。ビジネス用語としてはあまりにも手垢が付いておりなんらセクシーではないが、きわめて具体的で実現根拠のあるシナジーだ。
いずれにせよ、「結局のところどんな価値創造ができることを信じてベットするのか」というコアの仮説がシンプルに具体化・明確化されていなければ、「急所」を押さえたDDは不可能である。